がんは日本人の死亡原因の第1位。予防医学の重要性が高まる今
がんは、日本人の死亡原因の第1位であり、今や「2人に1人ががんになる時代」といわれています。
高齢化が進む現代において、がんはもはや特別な病気ではなく、誰にとっても身近なリスクとなっています。
その一方で、医療の進歩により「がんの多くは予防できる」という事実も明らかになってきました。
その中心にあるのが、予防医学の考え方です。
つまり、「病気になってから治す」のではなく、「病気にならない身体をつくる」ことが大切なのです。
中でも、運動はがん予防の有効な手段のひとつとして、世界中の研究者から注目されています。
理学療法士として、身体機能と健康行動の両面からこのテーマを掘り下げていきます。
なぜ運動ががん予防になるのか?
がんの発症には、遺伝要因だけでなく、生活習慣の影響が大きいことが分かっています。
特に「食事」「喫煙」「飲酒」「運動不足」は、がんリスクを高める代表的な因子です。
世界保健機関(WHO)や米国がん協会(ACS)は、
運動をがん予防の重要な柱と位置づけています。
定期的な運動を行う人は、そうでない人に比べて複数のがんの発症リスクが有意に低いという報告もあります。
また、運動はがんだけでなく、糖尿病や心疾患、認知症などの生活習慣病全般の予防にも効果的です。
「健康寿命」を延ばすという点でも、運動は極めて重要な役割を果たしています。
エビデンスで見る「運動とがん予防」
運動が発症リスクを下げるがん
世界がん研究基金/米国がん研究協会によってまとめられた報告書によると、身体活動によって予防が期待できるがんとして以下のがんがあげられています。
- 大腸がん:特に有酸素運動によるリスク低下が顕著
- 乳がん:閉経後女性でリスクが明確に低下
- 子宮内膜がん:運動量が多いほど発症率が低い
特に大腸(特に結腸)の発がんリスクを減らすための生活習慣として身体活動が唯一確実に効果的であると位置付けられています。
米国の大規模コホート研究(Mooreら, JAMA Intern Med., 2016)では、
中等度〜高強度の身体活動を定期的に行う人は、13種類のがんの発症リスクが平均7%〜20%低下していたと報告されています。
どのくらいの運動で効果があるのか?
世界がん研究基金(WCRF)およびアメリカがん研究協会(AICR)は、
次のような運動量を推奨しています。
- 中強度運動(速歩・軽いジョギングなど):週150〜300分
- 筋トレ(自重・ウエイト問わず):週2回以上
がんを予防するという観点からは、「なんでもよいので運動しましょう」ではやや不十分のようです。まずは速歩を週150分(30分を週5日)を目標にしましょう。
運動ががんを防ぐ5つのメカニズム
運動がなぜがんを防ぐのか。その理由は、身体の内部で起きる複数の生理的変化にあります。
- 慢性炎症の抑制
慢性的な炎症は発がんのリスクを高めます。
定期的な運動はCRPやIL-6などの炎症マーカーを低下させ、体内環境を整えます。 - ホルモンバランスの改善
運動によりインスリンやエストロゲンが適正化され、ホルモン依存性のがん(乳がん・子宮がんなど)のリスクが減少します。 - 免疫機能の向上
自然免疫の要であるNK細胞の活性が高まり、異常細胞の早期除去が促されます。 - 体脂肪の減少
肥満は多くのがんの共通リスク因子。
運動により内臓脂肪が減ることで、がん関連ホルモンの分泌も抑制されます。 - 酸化ストレスの低減
適度な運動は抗酸化酵素(SODなど)を活性化し、DNA損傷のリスクを低減します。
理学療法士がすすめる「がん予防のための運動法」
① 有酸素運動を日課に
最も取り入れやすく、エビデンスの確立した方法です。
目安は速歩30分 × 週5回。
「ややきつい」と感じる強度(Borgスケール11〜13)で十分です。
ポイントは、続けること。1回の完璧さよりも習慣化が大切です。
② 筋トレで代謝を上げる
筋肉は「代謝のエンジン」。
筋力トレーニングは、がん予防においても重要な役割を果たします。
特に下肢筋力の維持は、糖代謝・免疫力維持に直結します。
スクワットが最適です。自重でOK。週2回を目標にしましょう。
③ NEAT(非運動性熱産生)を意識する
NEATとは、日常生活の中で消費される「ちょっとした動き」のこと。
階段を使う、立って家事をする、通勤で一駅分歩く——こうした積み重ねが総エネルギー消費を大きく左右します。
理学療法士の視点からも、これらの動きは関節可動域の維持・姿勢改善に効果的です。日々リハビリ業務にあたっていると、この日常生活のちょっとした改善が難しくもあり、キーポイントになると感じます。現状の生活リズムを変えることは大変ですよね。ただ少しだけ意識を変えるだけで、得られるメリットはかなり大きいと思います。毎朝駅で乗っているエレベーター。階段に変えてみませんか?
がん経験者にとっても運動は有効?
近年の研究では、がんの治療後や再発予防においても運動が有効であることが示されています。
- 乳がんサバイバー:定期的な運動により再発率・死亡率が低下
- 大腸がんサバイバー:治療後の体力回復や生活の質(QOL)の向上
ただし、治療中や直後は体力や免疫が低下しているため、医師・理学療法士などの専門家と相談しながら、個別にプログラムを調整することが大切です。
運動は「治療の妨げ」ではなく、「回復を支える力」でもあります。
まとめ:がん予防は「日々の積み重ね」から
がんは日本人の死因の第1位という現実がありますが、その多くは生活習慣で予防できることが分かっています。
運動は薬や手術に頼らない、最もシンプルで効果的な予防法の一つです。
理学療法士として感じるのは、「特別な運動よりも、続けられる運動こそが最大の武器」であるということ。
毎日の少しの積み重ねが、将来のがんリスクを大きく変える可能性を持っています。
今日からできる「30分のウォーキング」から、あなたの健康寿命を伸ばしていきましょう。
参考文献・エビデンス
- World Cancer Research Fund/AICR. Diet, Nutrition, Physical Activity and Cancer: a Global Perspective, 2022.
- WHO. Global Recommendations on Physical Activity for Health, 2020.
- Moore SC et al. JAMA Intern Med. 2016;176(6):816–825.
- Patel AV et al. CA Cancer J Clin. 2019;69(2):88–108


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