私たちの体は呼吸をしてエネルギーを作るたびに、「活性酸素」という副産物を生み出します。
この活性酸素が細胞を酸化(=サビつかせる)ことで老化を促進します。
さらに、慢性的な炎症が続くことで、この酸化ダメージが加速してしまうのです。
酸化と慢性炎症の悪循環を断つことがアンチエイジングの鍵です。
酸化と炎症
酸化とは?
私たちの体は空気中の酸素を利用して効率よくアデノシン三リン酸(ATP)を産生することができます。しかし摂取した酸素の1~2%が活性酸素となりミトコンドリアは常に酸化ストレスにさらされ、また血液中の炎症細胞からも大量の活性酸素が産生されることで、常に生体は強い酸化ストレスにさらされています。同時に生体は、生体内からだけではなくエクスポソームとよばれる様々な刺激(紫外線、放射線、たばこ、酒、食品添加物、環境ホルモンなど)をうけ、体の外部からも酸化ストレスにさらされているのです。しかし、生体にはあらかじめ活性酸素による酸化的障害を防ぐための抗酸化機能が備わっています。この活性酸素が持つ酸化力と生体の抗酸化力の均衡が崩れないようにすることが大切です。アンチエイジングの立場からは、生体内外からの活性酸素に打ち勝つ体をつくることが重要だと考えられています。
酸化によって引き起こされる身体への主な影響
細胞の損傷(DNA・脂質・タンパク質の酸化)
- DNAが傷つく → 遺伝子発現の異常、がんリスク上昇
- 細胞膜の脂質が酸化(過酸化脂質の生成) → 細胞の破壊・老化
- タンパク質が酸化 → 酵素や筋肉の機能低下
→ 「細胞が古くなる(老化)」または「機能を失う」
ミトコンドリアの機能低下
ミトコンドリアはATP(エネルギー)の産生工場です。酸化ストレスによりエネルギーを産生する能力が低下してしまいます。結果的に「疲れやすい」「代謝が落ちる」「筋疲労からの回復が遅れる」「だるい、やる気が出ない」といった症状があらわれてしまいます。
血管の老化(動脈硬化)
活性酸素は血管の内皮細胞を傷つけ、結果的に動脈硬化を引き起こし血流の障害を引き起こします。
- 血管が固くなる(動脈硬化)→高血圧
- 脳梗塞・心筋梗塞など動脈硬化が要因となる疾患のリスクが高まる
皮膚・関節の老化
酸化ストレスはコラーゲンやエラスチンなど構造タンパク質の変性を引き起こす可能性があります
- しわ、たるみ、肌のくすみ
- 軟骨細胞の劣化 → 関節軟骨の変性→関節痛
- 炎症性サイトカインの増加(IL-6, TNF-α)
脳への影響
脳は大量の酸素を消費し、酸化の影響を受けやすい臓器です。脳にある神経細胞が障害をうけると様々な疾患の要因となる可能性があります
- 神経細胞の損傷 → 記憶力・集中力の低下
- アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患に関与
慢性炎症の促進
酸化ストレスが炎症性サイトカインの産生を刺激し、慢性的な炎症反応(low-grade inflammation)を引き起こします。
- 生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)
- サルコペニア(筋肉減少)
- 老化細胞の蓄積
炎症とは?
炎症には感染やケガなどにより引き起こされる急性炎症と、組織への持続的なストレスによって、持続的に誘導される慢性炎症の2つがあります。
問題は後者の慢性炎症です。この慢性炎症により生物学的年齢の変化が起こることで、様々な病気や老化現象が引き起こされているといわれています。
慢性炎症が関係する老化・疾患一覧
神経系疾患 | アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症 |
慢性炎症性疾患 | 炎症性腸疾患、関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患 |
心血管系疾患 | 動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞 |
皮膚 | しわ、セルライト など |
代謝疾患 | 糖尿病、メタボリックシンドローム |
筋骨格系疾患 | 骨粗しょう症、フレイル |
がん |
- エビデンス紹介:
炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-αなど)は老化細胞を増やすことがわかっています(Lopez-Otin et al., 2013)。
酸化と炎症の悪循環
- 活性酸素により組織が酸化しダメージを受ける→慢性炎症を引き起こす
- 慢性炎症がさらに多くの活性酸素を生み出す
- 結果:慢性的な炎症が引き起こされ、老化と様々な疾患の原因となる
この悪循環を断つことが重要なのです。
酸化・炎症を抑える実践法
下記表に酸化・炎症を抑制する方法の一覧が記載してあります。実践法については一例が記載してあるのみです。運動であれば実際にどのような内容の運動を、どうやって、どれくらいの強度で、どのようなことに気を付けて実施するかが重要となってきます。詳細はまた後日このブログで紹介していく予定です。
カテゴリ | 実践法(例) | 理学療法士視点コメント |
---|---|---|
運動 | 週3回の有酸素運動(ウォーキング・スイミング) | 継続が抗酸化酵素の活性を上げる |
栄養 | 抗酸化食材(緑黄色野菜、ブルーベリー、オメガ3) | ビタミンC・E・ポリフェノール・EPA/DHAが有効 |
休養(睡眠) | 7時間前後の安定した睡眠 | 炎症性サイトカインを抑制 |
ストレス管理 | マインドフルネス、深呼吸 | 自律神経のバランスを整える |
姿勢・呼吸 | 胸郭を開く姿勢改善 | 酸素効率と自律神経を整える |
まとめ:細胞を守る生活習慣が“若返り”の本質
老化を止める魔法はありませんが、酸化と炎症をコントロールすることは、「生物学的年齢」を若く保つための最も確かな方法の一つです。すぐに効果が表れることはありません。日常の中で無理なく継続できる方法を見つけて、長期的に取り組んでいきましょう。
引用・参考文献
- Lopez-Otin, C. et al. (2013). The hallmarks of aging. Cell, 153(6), 1194–1217.
- Imai, S., & Guarente, L. (2014). NAD+ and sirtuins in aging and disease. Trends in Cell Biology, 24(8), 464–471.
- Pedersen, B. K., & Febbraio, M. A. (2012). Muscles, exercise and obesity: skeletal muscle as a secretory organ. Nature Reviews Endocrinology, 8, 457–465.
- 山田豊文(2018)『老けない体をつくる栄養学』祥伝社
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「抗酸化と老化」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
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